2018年5月7日月曜日

ことばと文化 11「あいさつの違和感」




朝のあいさつ


かつて、英語しか通じない人たちばかりの職場で働いたことがある。仕事や休憩時間に使う英語は何とかなっていたが、朝のあいさつには苦労した。




もちろん、「Good morning.」はふつうに言える。問題は、その後の「How are you?」だ。


英語圏の人にとって、朝のあいさつは、「Good morning.」だけでは終わらない。「How are you?」と続くのがふつう。そしてこちらは、「How are you?」と聞かれれば、条件反射のように、「Fine, thank you.」と答えてしまう。


しかし、実のところ、気分はFineでも何でもない。それどころか、どんな気分か、考えてもいないのだ。うわすべりに定型句を口にすることには、何かうそをついているような、罪悪感を覚えたものだ。


そのうち、「OK.」ということを覚え、なんとなく正直な感覚に近い答えができるようになった。また、「Fine.」や「Good.」と答えることにより、何となく、気分がいいような気になることもあった。


それでも、How are you? に対する違和感は完全には消えない。日本人どうしのあいさつでは、How are you? は不要だからだ。「おはようございます」と言えば、それで終わり。職場で毎朝会っている人に、ことさら「元気?」や「調子は?」などと聞くことはない。そういう質問をするとすれば、病気やケガで久しぶりに出社してきた人に対してぐらいのものだ。





それでも聞かれるHow are you?


 英語を母国語とする人で、日本語のできる人は、たいてい How are you? を「元気?」「元気ですか?」という日本語に置き換えている。「おはようございます」だけで終わるのは、物足りない感覚があるのではないか。また、How are you? は次の会話のきっかけともなっているようだ。


How are you? に困っていたころ、ネガティブな答えをするとつっこまれる、という話を聞いた。だから、なるべく当たり障りのない返事をするようにしていたものだ。





日本独自のあいさつ


 一方、日本にも外国にはない特有のあいさつがある。


「お出かけですか」

「ちょっとそこまで」


日本に住み始めたばかりの外国人にとって、この表現は馴染まないもののようだ。近所の人と顔を合わせるたびに、「お出かけですか」と聞かれ、行先をいちいち詮索されているような感覚を覚えた、という例もある。




英語にしてみると、「お出かけですか」は、Where are you going?と聞かれるのに等しいのだろう。そして英語では、「ちょっとそこまで」のようなあいまいな返答はできない。単なる決まり文句と知らなければ、大いなる違和感を覚えることだろう。



おまけ



日本人で、英語を日常使い慣れていない人は、How are you? と聞かれたら、「Fine, thank you.」または、「Fine, thank you. And you?」と答えるのではないだろうか。街頭調査でもすれば、かなりの割合でこの答えになると思われる。


一方、私の経験では、英語を母国語とする人で、How are you? と聞かれ、Fine, thank you. と答える人はひとりもいなかった!

よく聞いたのは、I’m OK. や、Not too bad. など。調べたところ、Fine という答えは、少しそっけない印象だったり、言葉として古臭い感じがするということだった。また、And you? もあまり言わないとのこと。How are you? の you にアクセントを置いて言うほうが、ふつうらしい。


How are you? は、会話のきっかけにもなる重要なフレーズだ。日本の英語教育もそのへんを考慮できるようになると、一皮むけるのではないだろうか。



もうひとつおまけ



How are you? の答えとして、Not too bad. というのを覚えた。ある時、Not too bad. と言ったつもりで、Not very bad. と言ってしまったことがある。

ある程度親しいアメリカ人だったので、「そりゃ変だ。Not very bad. は、すごく悪くはないけど、『悪い』ということだよ」と指摘された。生兵法はけがのもと。だからそれ以降、うっかり言い間違えないように、Not too bad. も使わないようにしている。






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