2018年11月29日木曜日

言葉と文化31「学校英語でやっちゃうおかしな表現」






学校英語の弊害とは?



学校英語についてはさまざまな批判や指摘がある。しかし、日本人が英語がダメと言われながらも、多少は英語が使えるのは、やはり学校で英語を教えてくれるからだ。私自身、特に留学したり語学学校に通ったりすることなく、何とか英語が使えるようになったのも、学校で勉強したことが役立ったからだ。


一方、当然ながら、学校での英語教育に改善できるところはある。たとえば、単語や例文を型にはめて教えるところ。学校で習う英語は点数で評価する。だから教える側・試験する側にとって、点数をつけやすくするシステムが取られていて、教科書に載っている通りの答えでないと不正解になってしまう。




結局、社会に出て、仕事で英語を使うようになっても、学校英語で覚えた訳語や訳文にしばられてしまうことになる。たとえば、頭の中で何とか正しい文章にしようとするあまり、結局うまくしゃべれなかったり、また英語が何とか使えても、不自然な表現になったりなど。これは、学校英語の弊害と言えるのではないだろうか。


たとえば、「teach=教える」と覚えているので、「電話番号を教えてください」と言うときに、「Can you teach me your phone number?」などと言ってしまう。「teach」は学問や技術を教える意味合いなので、英語としては変。「Can/Could I have your phone number?」などがふつうの言い方だ。


Can you teach me your phone number?」でも通じないことはないだろうが、「あなたの電話番号がどういうものか、説明してもらえますか」といったニュアンスで受け取られてしまうだろう。



「面白い」の言い方は?



もう一つの例として「面白い」という言葉がある。「面白い」を英語で何というか聞かれたら、たいていの人は「interesting」という単語がまず思い浮かぶのではないだろうか。「面白い本」でも「面白い人」でも「面白いパーティ」でも、単純に「interesting」を使ってしまいがちだ。


しかし、「面白い」の意味合いにより、使われる英語は全く違う。「興味をそそるもの」「面白おかしいこと」「楽しいこと」は、それぞれ別の表現になる。たとえば、「面白い芸人」を「interesting comedian」と言ってしまうと、笑わせてくれる面白さではなく、たとえば経歴などが変わっていて興味深い人、といったようなことになってしまう。


「面白い」を意味合い別に英語にするとだいたいこんな感じ。


「興味をそそるもの」


これは、interesting で正解。興味深い内容があるとか、それまで知らなくて興味をそそられる、といった場合に使われる。「面白い本=interesting book」「面白い考え方=interesting idea」など。

「面白おかしいこと」


笑ってしまうような面白さについては、funny という表現がある。「面白いジョーク=funny joke」など。「滑稽な」と言う意味の comical という言葉もある。

「楽しいこと」


娯楽やパーティなど、楽しい時間を過ごす意味合いを表す英語は、amusingenjoyableentertaining など。「わくわく楽しい」なら exciting。スポーツ観戦などの楽しさを表すのによく使われる。「パーティ、楽しかったです」と言いたいときは、形容詞にこだわらず、「I enjoyed the party!」などと言うのが自然だ。





interesting」に注意



interesting」という単語は、基本的に「面白い、興味深い」という意味だが、場合によっては、「びみょう」といったニュアンスで使われることもあるので注意が必要だ。誰かの意見に対し、はっきり賛成も反対もできないというときに使われたりすることがある。


これは、interesting に限ったことでなく、「Thank you.」や「Great.」など、ふつうはいい意味で使われる表現が、ネガティブな意味合いで使われることもある。もちろんだいたいは、表情や話し方で分かるものだ。




学校英語でも、通り一遍の訳語・訳文を教えるのではなく、時と場合により、同じ単語がいろいろな意味合いを持ったり、また一つの日本語がいろいろな英語の表現になることをもっとしっかり教えてくれたらいいのではないかと思う。



おまけ:私の失敗談



以前、ニューヨークのデパートで、急にトイレに行きたくなったことがある。売り場の人に場所を聞こうとして、口をついで出たのがこれ。


May I borrow the toilet?




borrow」は基本的には、一時的に借りて、あとで返すニュアンスなので、もちろんトイレを借りるときに使うのは変。また、「toilet」もダイレクトな表現なので、通じるが、適切な言い方ではない。誰かの家で、「トイレを貸してください」と言いたいときなら、「May/Can I use the bathroom / washroom?」などと言うのがふつう。


その頃はすでにそれなりに英語を使えるようになっており、「Where is the bathroom / washroom?」くらいの表現はふつうにできたのだが、なぜかこんなヘンテコな英語を口にしてしまった。切羽詰まっていたためか、無意識に話すと日本語の直訳になってしまうためなのかもしれない。


私が言った表現は、ネイティブにすれば、「便器をちょっと持って行っていいですか?」と言われたようなものだろう。日本語でもこんなことを言われれば、当惑するか、吹き出してしまう。その時の店員はおなかを抱えて大笑い。その後、公共の場所でトイレをさがす時は、英語に限らず、「どこですか」の表現を使うようにしている。



2018年11月23日金曜日

イタリア語なるほどメモ40「内閣とトイレは同音異義語?」





  



イタリア語にも同音異義語がある



日本語は同音異義語が多い言語だ。これは、日本語の音の種類が少ないのに対して、言葉の種類が多いため。確実なデータは見つけられなかったが、日本語は世界で最も同音異義語が多いのではないか、と言われている。


英語も同音異義語は多いほうと言えるのではないだろうか。あるサイトでは、主なものとして、217組、462語の同音異義語が載っていた。「right」と「write」、「I」と「eye」、「there」と「their」など、中学生でも知っている単語も多くある。英語の場合、同じ音を表すのに、いろいろなスペルがあるのでこういった現象が起きるようだ。




一方、発音がスペルに厳密に対応しているイタリア語の場合はどうだろうか。実はタイトルの「内閣」と「トイレ」が同音異義語。イタリア語で、「gabinetto(ガビネット)」だ。



Gabinetto の由来



この言葉は、フランス語の「cabinet」に由来する。もともと「小さな部屋」を表し、これが、「キャビネット=家具」や「内閣=限られた人が話す部屋」といった意味に発展した。英語でも内閣を表す単語は、フランス語と同じスペルの cabinet


また、イタリア語の gabinetto の場合、「部屋」の意味合いから、「実験室」「研究室」といった意味もある。英語では、laboratory lavatory は別の単語だが、イタリア語では、同じ gabinettoだ。





イタリア語の同音異義語



イタリア語で同音異義語は「omònimo(オモニモ)」。違う意味の単語で音が同じことを「omofonia(オモフォニア)=同じ音」と言い、違う単語でスペルが同じことを「omografia(オモグラフィア)」と言う。


スペルが違う同音異義語omofonia の例:


前置詞の a と「avere=持っている」の3人称単数現在の ha
「空」の cielo と「celare=隠す」の1人称単数現在の celo
「盲目」の cieco と「チェコ人、チェコ語」の ceco
「雰囲気、そよ風」に定冠詞がついたl'aura と女性の名前の Laura
「蚊」の mosca と「モスクワ」の Mosca

 
スペルが同じ同音異義語 omografia


「(体の)頭」と「リーダー・ボス」を表す capo
「キビ(植物)」と「マイル」を表す miglio
「アナグマ」「くぬぎ(植物)」「(金融の)レート」を表す tasso



やはり、日本語や英語に比べて、イタリア語の同音異義語はだいぶ少ないようだ。



「桃」と「魚」は同じ単語?





イタリア語で「桃」は pesca Pesca には、「漁業」という意味もある。同じ単語に2つの意味があるのではなく、別の単語だ。スペルは全く同じだが、「e」の音が違う(pèsca pésca)。


もちろん、この2つの言葉は語源も違う。「桃」の pesca は、ラテン語の persico, percica(ペルシャの)が元で、これは桃の学術名ともなっている。「ペルシャのりんご」という言葉が起源のようだ。一方、「漁業」の pesca は、動詞 pescare(釣りをする、漁業をする)が元。pescare はラテン語で魚を表すpĭscis の派生形の pĭscari が語源。


実はスペイン語では「魚」は pescado で、pesca と語感が似ている。(イタリア語は pesce=ペシェ)。そして、スペイン語では桃は pesca ではなく、melocotón(メロコトン)と言う。私は実は、イタリア語より先にスペイン語を勉強していたので、「pesca」という単語を聞くと、どうしても「魚」を思い浮かべてしまう。要は、イタリア語の「桃」とスペイン語の「魚」が似ている、ということでした。




なお、イタリア語の同音異義語に関するサイトでは、pesca のような微妙な母音の違いがある同音異義語として、約30の単語が挙げられていた。確かに日本語でも、「橋」と「箸」や「飴」と「雨」などは微妙に音が違うが、やはり同音異義語だ。



おまけ:日本語で一番多い同音異義語は?



広辞苑に載っている中で一番多い同音異義語は何と言う言葉でしょう?


答えは、「こうしょう」。


「交渉」「考証」「高尚」など、何と48種類ある。世界広しといえども、ひとつの音で48種類の意味の言葉がある言語は、ないのではないだろうか。




参考:
日本漢字能力検定協会「一番多い同音異義語は?
La Grammatica Italiana gli omonimi
Treccaniomònimo
英会話オンライン「英語の同音異義語(homonyms)一覧
Wikizionarioomònimo」「omofonia」「omografia」「pesca」「pescare
What’s in a Name モモ




2018年11月10日土曜日

言葉と文化30「日本語の音は少ない?」







日本語は音が少ないので、英語など外国語の発音が難しい、と言われることがある。逆に、外国人にとっては、覚える音が少ないので、発音が簡単、と言う人もいる。実際のところ、日本語の音というのは少ないのだろうか。そして、そのために日本人は外国語の発音が苦手なのだろうか。



日本語の音はいくつある?



「日本語の音はいくつ?」と聞かれた場合、すぐに「50音」とか、「(んを入れて)51音」と答える人が多いのではないだろうか。場合によっては、や行やわ行にはない文字もあるから、それを引いて45音または46音と言うかもしれない。小学校で「50音表」というものを習うので、その言葉から何となく日本語の音は50音と思ってしまいがちだ。


実際のところ、50音表にしたがった数え方をすると、50音どころではない。濁音や半濁音、そして拗音(ようおん=ちいさな「ゃ」「ゅ」「ょ」をつけた音)があるからだ。



日本語の音の数は?



分かる範囲で日本語の音を表に書き出してみた。直音が71、拗音が36、外来語表示の拗音が25で、合計は何と132もあった!外来語表示の特殊なものを入れると、もっとあるかもしれない。


直音(清音)
直音(濁音)


拗音
きゃ

きゅ
きゅ
ぎゃ
ぎゅ
ぎょ
しゃ

しゅ
きょ
じゃ
じゅ
じょ
ちゃ

ちゅ
ちょ
ぢゃ
ぢゅ
ぢょ
にゃ

にゅ
にょ
ひゃ

ひゅ
ひょ
びゃ
びゅ
びょ
みゃ

みゅ
みょ
ぴゃ
ぴゅ
ぴょ
りゃ

りゅ
りょ

その他の拗音(外来語表示)
ウィ

ウェ
ウォ
ヴァ
ヴィ

ヴェ
ヴォ



シェ



ジェ



チェ
ツァ
ツィ

ツェ
ツォ

ティ

テュ

ディ

デュ


トゥ

ドゥ







ファ
フィ
フェ
フォ
フュ



正確な音の数え方とは?



言葉が持つ音の数というのは、「音素」として数えるのが正しいとのこと。音素と言うのは、母音と子音の種類を数えたものだ。数え方にはいろいろな方法があり、正確な数字はないようだが、Wikipediaでの数え方は次の通りで、23音となる。


種類
母音
a, i, u, e, o
5
子音
k, s, t, c, n, h, m, r, g, z, d, b, p
13
半母音
j, w
2
特殊音
n (「ん」の音)q(つまる音)h(のばす音)
3
合計
 
23


他のサイトも見てみたが、だいたい日本語は20音くらいと言えるようだ。英語は45音くらい。音素の数で行くと、確かに日本語の音は英語の音よりだいぶ少ない。


ちなみに、音素が一番多い言語はアフリカのブッシュマンが話す言葉で、何と200種類くらいある。アフリカから離れた地域ほど音素の数が少なくなるという説があり、南アフリカのXu語は141、タンザニアのHadza語やナイジェリアのIgbo語は59。ヨーロッパに行くと、フランス語やドイツ語の音素が約40、アジアでは中国語や韓国語が約30だ。そして日本の約20からさらに東に行ってハワイ語になると13種類だけしかない。




ただし、インドネシアにも音素の少ない言葉があるそうで、この説はかならずしも正しいとは言えないようだ。とは言え、世界の言語の中で日本語の音素というのはかなり少ないほうであることは確かだ。



音素が少なければ発音は簡単なのか?



「日本語は音の種類が少ないから、外国人にも発音が簡単」とよく言われる。しかし、私はこれを聞くたびに「本当にそうだろうか?」と思ってしまう。なぜなら日本語に独特な発音は、日本語を母国語としない人にとってはかなりむずかしいと思えるからだ。


例えば、英語を母国語とする人の場合、よほど日本語の発音に長けている人でない限り、日本語の母音や子音を英語の音で発音する。例えば、TDなどは日本語本来の発音に比べて破裂の度合いが強いし、Rなどは、舌を丸めてこもったような音になる。日本語の「シ」の音も、英語の「si」や「shi」の音になり、日本語の柔らかい音とは異なる。


また、母音も英語の音になる。例えば英語になっている日本語で比べてみると分かりやすい。「すし」の「す」の音は日本語の「ウ」の音に比べ、唇を丸めて深い「ウ」の音になるし、「とうふ」の「とう」は、日本語の本来の発音の「とー」ではなく、「go」の発音のような「ou」になる。




要は、それぞれの言語が持つ発音は独自のものが多く、母国語としない人にとっては、音素が多かろうが少なかろうが難しい、ということだ。だから、日本人だけが特に外国語の発音が苦手、ということはなく、どんな言語を話す人にとっても、外国語を正確に発音するのはたいへん、ということだ。


外国語を勉強するとき、発音がいいに越したことはない。また、人により、発音がうまい人とそうでない人がいるのも確かだ。しかし、発音が上手にできないからと苦手意識を持つ必要はないのではないか。外国の言葉というのは、うまく発音できなくてあたり前なのだから。



おまけ



スペイン語は母音が日本語と同じ5つなので、日本人にも発音しやすいと言われる。確かにスペイン語の母音は日本語と同じ「a, e, i, o, u」の5つ。もちろん、日本語の母音の音とまったく同じわけではないし、日本語にない子音の音もある。


だが、日本人が話すスペイン語は、英語ネイティブの人が話すスペイン語より聞き取りやすい、というのを聞いたことがある。TDSRなどの子音の音が英語より日本語に近いからではないかと思う。日本人に発音のアドバンテージがある言語があると思うと、うれしいものだ。






参考:
Wikipedia音素