2018年9月23日日曜日

言葉と文化28「字幕と語学」





字幕なしで映画を楽しみたい



外国語を勉強する理由としてよく聞くのは、「映画やドラマを字幕なしで見られるようになりたい」ということ。





しかし、TOEICや英検で高得点を取る人でも、英語の映画を字幕なしで見るのは難しい、ということも聞く。バイリンガルでない人が、勉強や努力によって字幕なしで原語の映画を楽しめるレベルになれるのだろうか。


一方、日本語や原語の字幕が語学の勉強に役立つという人もいる。字幕は語学の勉強にうまく使うことはできるのだろうか?



字幕の映画



日本では昔、映画館で上映される外国の映画は字幕付きがふつうだった。吹き替え版が増えてきたのは2000年くらいから。最近では配給会社も人気俳優などを起用し、吹き替え版にかなり力を入れている。映画館の入場者数では、吹き替え版のほうがやや優勢、という話もある。


実は日本以外では、外国映画を吹き替えで上映する国のほうが多いらしい。一生懸命に字幕を読むよりは、母国語で聞いたほうがはるかに分かりやすいからだろう。




日本で吹き替えが増えてきているとはいえ、「それでも字幕派」という人も多い。俳優の生の声を聞きたいとか、オリジナルの雰囲気を味わいたいからとか、理由はいろいろ。もちろん原語で聞いたほうが、語学の勉強になるから、という殊勝な人もいるわけだ。


とは言え、外国語がネイティブ並みに聞き取れる人でない限り、どうしても字幕を「読む」ことになる。視線は画面と字幕をいそがしく行き来し、映像に 100% 集中はできない。大事なシーンを十分楽しめなかったり、見逃してしまうことすらある。だから、原語で話が追えるくらいの聞き取り力をつけて、字幕を見ずに原語で楽しめるなら、これに越したことはない。



がんばれば字幕なしで聞き取れるようになるのか?



答えは、「場合による」。


残念ながら、かなり語学の上級者でも、さまざまなジャンルの映画をすべて字幕なしで楽しむということは難しいらしい。


映画やドラマは、滑舌よく発音していないせりふがあったり、難しい言葉が使われたりすることもある。騒音や音が反響する中でのせりふだってある。ネイティブでもすべてのせりふを100% 聞き取れるとは言えない。これは、われわれが日本の映画を見るときも同じこと。




とはいえ、好きなジャンルの映画を「楽しむ」ということであれば、字幕なしでもなんとかなるケースもある。条件としては、


一定の語学力のレベルに達していること


どの程度、とは厳密には言えないが、例えば英語であれば、TOEIC 900点レベル以上というものもあれば、高校卒業レベルが目安というものもあった。いずれにしても、平均的な日本人の英語力では、難しいということだ。


その分野の語彙が十分あること


医療や法律、科学など、専門用語が多い映画は、言葉を知らないと話についていけなくなる。また歴史ものなど、登場人物の名前がカタカナで知っているのと全然違う発音だったりする。字幕なしで見るなら、興味のある分野で、十分に語彙がある内容のものを選ぶべきだろう。


使われている言葉の聞き取りに慣れていること


英語の場合、アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語など、さまざまな英語がネイティブの英語だ。字幕なしで見たい映画・ビデオで使われている英語の種類に慣れていれば、聞き取りもスムーズに行く。




もちろん、語学力がそこまででなくても、事前に吹き替え版を見て内容を覚えておくとか、登場人物の名前やキーワードの原語をしっかりチェックしておくことで、字幕なしでもある程度楽しむことは可能だ。



字幕を語学に生かすには?



結局、ネイティブレベルでない人が、字幕なしの映画・ドラマを楽しむ、というのは、かなり厳しいものがある。だが、語学の勉強のモティベーションになるのも確かだ。だから、今のところ字幕なしではついていけない、ということであれば、逆に字幕を利用して上達を目指すのもいいのではないだろうか。


ウェブで調べてみたところ、字幕を使って英語の聞き取りに役立てた、というような記事もあった。ポイントになりそうなのは次の通り。


短い時間で区切って見る


いきなりフルスケールの映画やドラマに挑戦するのではなく、好きな内容のものを5分とか10分に区切って見る。たとえば、Youtube で、興味があるジャンルの短い動画を選んでもいいかもしれない。


内容を理解しておく


最初に日本語の字幕できっちり内容を理解しておく。画面の内容もしっかり見ておく。


テキストを見ながら言葉を聞き取る


原語の字幕が利用できることが前提となるが、原語の字幕を見ながら、話されている言葉をしっかり聞き取る。すべて字幕の通り聞き取れるまで、何回も繰り返してみる。

なお、DVDで多言語を選べるものの場合、映画・ドラマによっては、話されている通りの言葉が表示されないものもあるので注意。Youtube の自動生成では、きっちり話されている英語は、かなり精度が高い。ただし、多少の間違いはあるので気をつけたい(たとえば、your you’re など)。




字幕なしで見てみる


最後に字幕なしで見てみる。最初に日本語字幕で見たときと比べ、楽しめる度合いが相当違ってくるはずだ。


まぁ、ここまで努力できる人なら、特に字幕での練習をしなくても、しっかり語学を身に着けられるので、とも思いますが…



おまけ:ネイティブでも聞き取れない英語



以前、イギリス人の同僚といっしょに車に乗っていた時、マイケルジャクソンの曲がラジオから流れてきた。好きな曲だったので、何とはなしに口ずさんでいたら、こう聞かれた。


「そこって、何て歌ってるの?」

その時思ったのは、

(え? 英語のネイティブなのに、分からないの?)


もちろん私は自分できっちり聞き取ったわけではなく、歌詞カードを見て覚えていただけ。「こういう歌詞だと思うけど…」と教えると、「ふ~ん」と言われた。


英語のネイティブでも英語が聞き取れないことがあることを知り、驚くと同時に、なにかちょっと救われるような気がしたことを覚えている。


参考:




2018年9月16日日曜日

イタリア語なるほどメモ37「床屋の語源は?」





床屋・ひげ・未開人



イタリア語で床屋は「barbiere(バルビエレ)」。英語の「barber」とよく似ているので覚えやすい。この言葉の語源は「barba(バルバ=ひげ)」。なるほど、ひげをそってくれるところというわけだ。そう言えば、日本でも床屋さんはひげを剃ることができるが、美容院ではひげは剃れないとのこと。




ひげの「バルバ」と聞いて、英語で「未開人」を表す「barbarian(バーバリアン)」という言葉が連想された。「バーバリアン」という言葉には、いかにもひげボーボーのイメージがあり、もしかしたら、関係があるのでは、と思って調べてみた。



バーバリアンの語源



古代ギリシャ人は、自分たちを「ヘレネス」と呼び、それ以外の民族を「バルバロイ(英語のバーバリアン)」と呼んだ。これは、異民族の言葉が「バルバル」といった音に聞こえたから、とされている。つまり、「バルバロイ」はギリシャ語以外の言葉を話す人たち、ということ。




ギリシャ語の βάρβαρος がラテン語の barbărus になった。古代ローマ帝国においての異民族とは、ヴァンダル族、フン族、西・東ゴート族などだった。



ひげとバーバリアンの関係は?



「バーバリアンはひげボーボー、だから、『ひげ』は『バーバリアン』が語源なのでは?」と考えるのは、私だけではなかった。日本語やイタリア語のサイトでは、このような記事・投稿はなかったのだが、英語サイトにはいくつか議論が見つかった。


Laudator Temporis Acti: Barbarians and Beards



で、結局、「バーバリアン」と「ひげ」が関係ある、というのは都市伝説ということのようだ。「バーバリアン=バルバロイ」はギリシャ語が起源、「ひげ=バルバ」はラテン語が起源ということで、この2つをつなぐ文献は見つかっていないとのこと。


ちょっとがっかり ('A`) ・・・



美容院は?



床屋のついでに「美容院」についても調べてみた。イタリア語で美容院は「salone di bellezza(サローネ・ディ・ベレッツァ)」という表現があり、まさに「ビューティ・サロン」という言い方。また、美容師は「parrucchiere(パルッキエレ)/parrucchiera(パルッキエラ)」と言う。これは、「parrucca(パルッカ=かつら)」という言葉に由来している。




なお、床屋の「barbiere」は職業の「理髪師」という意味もある。ロッシーニのオペラ「セビリアの理髪師」はイタリア語で「Il barbiere di Siviglia」。



床屋・美容院でやってくれること



Wikzionario によると、それぞれの仕事内容は次の通り。イタリアでも、ひげを剃れるのは床屋さんだけとのこと。



日本語
イタリア語
床屋
髪を切る
taglia i capelli
ひげを剃る
rade la barba
美容院
ヘアスタイルを整える
acconcia i capelli
髪を切る
taglia i capelli
髪を洗う
lava i capelli
髪を染める
tinge i capelli



おまけ:ブランドのバーバリーは?



ついでに、ブランドのバーバリーも音が似ているので調べてみた。こちらは、創業者の名前からつけられたもの。スペルは「Burberry」なので、まったく関係なかったですね (´-;)トホホ




参考:
Wikipediaバルバロイ」「barbaro」「baribiere」「parucchiere」「バーバリー
Wikzionariobarbaro」「barbiere」「barba」「parucchiere


2018年9月11日火曜日

言葉と文化27「迷惑メールはなぜスパム?」





迷惑メールの呼び方



迷惑メールがどんどん迷惑になってきている。




以前の迷惑メールは英語で書かれたものが多く、明らかに怪しいことが分かった。しかし最近は、日本語で巧妙に作られたメールが来るようになっている。銀行とかネットショップ、携帯電話会社を騙ったものなど、うっかり開いてしまいそうだ。


「迷惑メール」は「スパム」とか「スパムメール」と呼ばれることが多い。他にも、「ジャンクメール」や「ウイルスメール」「バルクメール」「フィッシングメール」といった言い方がある。それぞれの呼び方に意味の違いはあるのだろうか。また、「スパムメール」というのは、缶詰の SPAM と関係があるのだろうか。



「迷惑メール」の呼び方いろいろ



いろいろな迷惑メールの呼び方について、グーグル検索してみた。検索結果の多い順で並べるとこうなる。


順位
迷惑メール名

ヒット数
1
迷惑メール
146.000,000
2
スパムメール
29,500,000
3
ウイルスメール
27,800,000
4
フィッシングメール
25,600,000
5
ジャンクメール
12,700,000
6
バルクメール
3,900,000


面白いことにウィキペディアでは、「迷惑メール」という項目はない。迷惑メール全般については、「スパム(メール)」という項目になっている。フィッシングメールについては、「フィッシング(詐欺)」という項目があった。


迷惑メールは、いくつかの種類に分けられるようだ。



種類
呼び方
1
広告目的などで、一方的に送り付けてくるメール
スパムメール
ジャンクメール
バルクメール
2
パスワードやクレジットカード情報など、個人情報を取るためのメール
フィッシングメール
3
ウイルスに感染させるためのメール
ウイルスメール
4
リンクをクリックさせて架空請求を行うメール
架空請求メール
5
メールを転送させるためのメール
チェーンメール




「迷惑メール」という言葉は、総務省などが使っているので、一番よく使われている。一方、「迷惑メール」という言葉自体、迷惑メール全般を指す場合と、広告目的のメールを指す場合があるようで、厳密な定義はないようだ。


なお、5番のチェーンメールというのは、最近は少なくなっているとのこと。



英語での「迷惑メール」



英語のいろいろな「迷惑メール」の言い方についても調べてみた。(英語の検索結果のみ)

順位
迷惑メール名

ヒット数
1
Spam email
2,000.000,000
2
Bulk email
353,000,000
3
Virus email
305,000,000
4
Junk email
241,000,000
5
Phishing email
197,000,000


このほか、UCE (Unsolicited Commercial Email) や、UBE (Unsolicited Bulk Email) という言い方もある。Unsolicited は、「勝手に送りつけてくる」という意味。



迷惑メールはなぜスパム?



以前より、迷惑メールとハムの SPAM に何か関係があるのか、気になっていた。この機会に調べてみたところ…


迷惑メールは、ハムの SPAM が語源だった!




かつて、SPAM のテレビコマーシャルがあった。これは、とにかく「SPAM! SPAM!」と繰り返すもの。これを、イギリスのお笑い番組「モンティ・パイソン」がパロディーとして取り上げた。


あるインターネットのスペシャリストが、モンティ・パイソンのファンで、繰り返し送り付けられてくる迷惑なメールを SPAM と呼んだ。これがきっかとなった、というのが一説。


SPAM のメーカーとしては、イメージが悪くなるのでいい迷惑では、と思ったが、特にマイナスともなっていないようだ。モンティ・パイソンのロゴを入れた記念商品なども販売したことがあるとのこと。



おまけ:「フィッシング」は「魚釣り」と関係ある?



「フィッシング」という言葉を知った時、情報を「釣りあげる」というイメージがぴったりで、英語では当然「fishing」と書くのだろうと思っていた。


何かのきっかけで、実は「fishing」ではなく、「phishing」と書くと知り、単にそういう専門用語なのかと深くは考えていなかった。


今回「迷惑メール」を調べるにあたり、ついでにフィッシングについてみてみたところ…


実は、フィッシングメールと魚釣りは関係があった!




2004年のコンピュータワールド記事によれば、フィッシングという言葉は1996年に生まれたもの。「情報を釣り上げる」という意味で、「fishing」がもとになっている。ハッカーの場合、スペルの「f」を「ph」に変えることが多いため、この単語も「phishing」として使われるようになったとのこと。


一説では、「f」を「ph」に変えるのは、「sophisticated」の「ph」に由来しているとも言われる。


インターネットの世界は次々と新しい言葉が生まれてくるので、気になったらしっかり調べておいたほうがよさそうだ。



参考:
迷惑メール相談センター「迷惑メール