2018年10月17日水曜日

イタリア語なるほどメモ39「青を表す単語いろいろ」

 

  

色の表現は人それぞれ



色というのは、人によってかなり認識が違う。特に青の場合、人によって感覚がかなり異なるようだ。例えば青と緑の中間の色の場合、人によって緑と言ったり、青と言ったりする。私の場合、青と認識する範囲が広いようで、ほとんどの人が「緑」と言う青信号はどうしても青にしか見えない。




イタリア語で青は?


英語で青は blue。イタリア語にも blu(ブル)という単語があるが、広く青の意味を表すのは azzurro(アッズーロ)という単語。このほかにも celeste(チェレステ)という表現があり、青を表す時はだいたいこの3つの単語を使い分けるようだ。


一方、同じラテン語系のフランス語では、「青」を表すのは基本的に blue。イタリア語の azzuro と同じ語源の azur という単語もある。コートダジュール(Côte d'Azur)は「紺碧海岸」という意味だ。



コートダジュール、カンヌの海岸



青の表現の語源



イタリア語の青の単語は、薄い順に、celesteazzurroblu となる。それぞれの語源はこんな感じ。


celeste(チェレステ)


ラテン語で「空の」を表す caelestis から。日本語でも「空色」という言葉があるが、まさに「空の色」といった意味。イタリアの空は日本の空より、もっと青いような気がするが、色としては薄いブルーで、日本語の「水色」に近い色を表す。


azzurro(アッズーロ)


語源は何とペルシャ語! ラピスラズリを表す「لاژورد (lâžvard, lâžavard)」という単語が元になっている。




このペルシャ語は、イタリア語、フランス語だけでなく、英語やスペイン語にもなっている。英語は azure(アジュア)、スペイン語は azul(アスール)。もとはいっしょの言葉だが、表す色は必ずしも同じではない。英語の azure は、イタリア語の azzurro より薄い青、一方スペイン語の azul は、azzurro より濃い青を表すとのこと。


blu(ブル)



フランス語の bleu から来たもの。フランス語の bleu は、フランク語の blao が語源となっている。イタリア語では、「azzurro scuro(アッズーロ・スクーロ=暗い青)」という表現もある。


このほか、turchino(トゥルキーノ)という言葉もある。これは トルコ石(pietra turchese)が語源で、暗い青を表す言葉。また、celesteazzurro の派生語として、ceruleo, cilestrino, azzurriccio, azzurrognolo, azzurrino などもある。


イタリア語の Wikipedia によるRGB 指定は次の通り。



Celeste
Azzurro
Blu
Turchino
RGB
178; 255; 255
0; 127; 255
0; 0; 255
59; 75; 135






ちなみに、トルコ石はトルコでは採れないそうです ( ε )フーン



英語や日本語の青の表現



英語で「青」と言うときは、blue の一言で済ませがちだが、実は英語もいろいろな表現がある。最近は緑がかった青を表す teal という色が流行っているようで、ウェブなどでもよく見かけるようになった。

英語の blue の類義語を見てみたところ、10語以上あった。


英語
日本語
英語
日本語
blue
navy
ネイビー
blue-green
青緑色
royal
ロイヤル
azure
紺碧
sapphire
サファイア
beryl
緑柱石
teal
ティール
cerulean
空色
turquoise
ターコイズ
cobalt
コバルト
ultramarine
ウルトラマリン
indigo
インディゴ
blue-gray
青灰色



日本語も見てみたところ…

何と 65種類!


青、水色、群青色、藍色 といったよく知られた言葉のほか、甕覗(かめのぞき)などという面白い言葉もあった。勿忘草(わすれなぐさ)や露草色(つゆくさいろ)など、植物・花にちなんだ名前も多く、情感にあふれる言葉が多い。こういう発見をすると、日本語が誇らしく思えるものだ。


色付きで紹介しているサイトはこちら





おまけ:なぜ人によって、青の認識が違うのか



私自身は「青」ととらえる範囲が広く、信号は緑ではなく、青だし、人が「紫の花」と呼ぶものも「青」と思ってしまう。なぜかと考えたところ、ふたつの理由が思い当たった。


ひとつは、日本語では信号の色を「青」と呼んでいること。私にとっては、「青信号」という言葉ありきで、信号の「進め」の色が青、という認識を子供の頃に持ってしまったからだと思われる。


もうひとつは、よく使う色の呼び方によるもの。虹の7色というのは、「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」と定義されている。ふつう色をおおざっぱに言うときは、この7色の藍以外の6色に、黄緑を加えた7色で表現することが多いのではないだろうか。


赤と黄色の間の橙、黄色と緑の間の黄緑があるのに、緑と青の間の青緑という色は使う頻度が少ない。だから、緑とも青とも言えない色については、自分の感覚に合ったほうを選ぶわけで、私の場合は「青」になる、ということだ。


色の感覚は人それぞれ。色を正確に言いたいときは、やはり RGB や、CMYK など、数字に頼るしかないようだ。





WikipediaAzzurro」「Celeste (colore)」「Blu」「Turchino (colore)
Wikizionarioazzurro」「celeste」「blu」「turchino




2018年10月11日木曜日

言葉と文化29「ローマ字の正しい書き方は?」





昔の笑い話で、「イタリア人にローマ字で手紙を書いても通じなかった」というのがある。「ローマで使うからローマ字じゃないのか?!」という落ちだ。もちろん、日本語をいくらイタリア風アルファベットにしても、日本語は日本語。イタリア語にはならない。





そもそもローマ字とは?



ローマ字は英語で「Roman characters」または「Roman alphabet」。古代ローマで使われていた「ローマの文字」=「ラテン文字」ということだ。そして、日本語でローマ字と言えば、ふつう「日本語をラテン文字で表したもの」のこと。


厳密に言うと、「日本語のを、ラテン文字に置き換えたもの」がローマ字。PCのローマ字入力と比べてみるとよく分かる。ローマ字が音を表すのに対して、ローマ字入力はひらがなや漢字の「ふりがな」に合わせて入力する。だから、微妙な違いがある。


例えば、こんな感じ。(ローマ字はヘボン式に合わせています)


ローマ字
ローマ字入力
こんにちは
Konnichiwa
Konnichiha
近づく
chikazuku
chikaduku
大阪
OsakaŌsaka
Oosaka
警戒
kēkai
keikai
~
o
o



訓令式とヘボン式



ローマ字の表記方法に2種類(注)あることはどのくらいの人が知っているのだろうか。私自身、「訓令式」「ヘボン式」という言葉を知ったのは、大人になってからのような気がする。


学校で習うのは訓令式だが、知らないうちにヘボン式を使うようになっていた。実際、社会人の場合は、ヘボン式を使っている人が多いと思われる。


ヘボン式が馴染む、ということには、次のような理由が考えられる。


駅名や道路の地名はヘボン式表示が多い

国土地理院の地名表示はヘボン式と決められている。

会社の住所表記はたいていヘボン式
名刺やウェブサイトの英語表示では、「~市」は「shi」となっている会社がほとんど。訓令式の「si」というのは、見た記憶がない。

スポーツ選手のユニフォームの名前はヘボン式表示が多い
伸ばす音(長音)は H をつけたり、記号をつけたりつけなかったり、定まっていないようだが、ち(CHI)やし(SHI)が一般的のようだ。

パスポートの氏名の表記がヘボン式に指定されている
知っている人は少ないかもしれませんが(~ ~

日本語から英語になった言葉がヘボン式で表されている
JudoMatchaTofuなど。





(注)厳密にいうとローマ字の表記の種類は二つだけではなく、それぞれがさらにいくつかに分かれているそうです。



ローマ字のルールはゆるい



ローマ字というのは、日本語の音を国際的に読んでもらえるよう使われるものだ。それなのに表記方法が複数ある、というのはいかがなものだろう。我々が外国語を習うとき、文字の書き方は何タイプかあって、それぞれ例外もいろいろあります、と言われたら、混乱してしまうだろう。


また、学校で習う表記方法と、社会で一般的に使われているものと違う、というのもずいぶんと無駄なような気がする。




以前地名のカタカナ表記について調べたときも思ったのだが、日本の場合、言語表現について、「例外を認める」「慣用に従う」といった言葉で、あまり規則をきっちり定めない傾向にあるようだ。



読みやすいように作られたはずのヘボン式でも…



ローマ字は最初に訓令式があり、その後、「英語を話す人に読みやすい」ように、ヘボン式ができた。その後、長音の「ˉ」「^」や、Nの音と母音を区切る「‘」などの記号を使わない「英語式」という表記法ができたとのこと。現在目にするローマ字はこの英語式が多いようだ。


しかし、同じアルファベットを使っても、母国語によって読み方が変わってしまう場合がある。例えば、「元気」や「地下」という言葉はこうなる。


英語を話す人が読むと → 「ゲンキ」
イタリア語を話す人は →「ジェンキ」
スペイン語を話す人は →「ヘンキ」


地下:chika
英語を話す人が読むと → 「チカ」
イタリア語を話す人は →「キカ」
フランス語を話す人は →「シカ」


昨今、海外から日本に来る観光客も急増している。ローマ字はいろいろなところで使われているので、日本人にとってだけでなく、外国人にとっても、「コレ!」と言える統一されたルールがあるに越したことはない。





おまけ:「あっ!」はローマ字でどう書く?



いろいろなルールがあるとはいえ、とりあえず日本語をローマ字で書くことはできると思っていた。ところがある時、ソーシャルメディアで「『あっ!』はローマ字でどう書く?」という質問を見て、答えを知らないことに気づいた。

  
調べてみたところ、語末に「‘」をつければいいそうだ。また、「’」の代わりに「Q」を使ってもいいそう。しかし、これを知っている人はどれだけいるだろう。言葉の表記というのは、みんなが知っているから使えるわけで、「A’!」や「AQ!」と見て正しく読んでくれる人はほとんどいないのではないだろうか…





参考:




2018年10月1日月曜日

イタリア語なるほどメモ38「調味料の言葉」






イタリアの基本の調味料は?



和食の基本は「さしすせそ」。「砂糖・塩・酢・醤油・みそ」からそれぞれ一文字を取った言い方だ。「醤油」が「せ」になるのは、昔「せうゆ」と書かれていたから。




一方、イタリア料理の調味料としては、塩・こしょうに加え、オリーブオイルと酢が基本だ。イタリア語ではそれぞれ、「sale(サレ)」「pepe(ペペ)」「olio di oliva / olio d’oliva(オリオドリーヴァ)」「aceto(アチェト)」。中でも、sale にはいろいろな派生語があって面白い。人が生きていく上で欠かせない重要なものだからだろう。



塩の派生語とは?



塩(sale)の語源は、ラテン語の sal。英語の salt、フランス語の sel、ドイツ語の Salz など、みなこのラテン語が元になってできた言葉だ。




派生語としてよく知られているのは、英語の salary salad。サラリーというのは、昔、兵士の賃金が塩で払われたり、塩を買うための金として払われたことからできた言葉。イタリア語では「salario(サラリオ)」になる。また、サラダは塩をかけて食べるもの、ということで、イタリア語では「insalata(インサラータ)」。


ラテン語の「sal(塩)」から派生した主な言葉をまとめてみた。なお、イタリア語では「給料」を表す言葉はいろいろあり、salario はそのひとつ。「賃金」という意味合いに近いようだ。毎月定額が支払われる「給与」という意味ではstipendio(スティペンディオ)という言葉がある。


イタリア語
読み方
日本語
salame
サラーメ
サラミソーセージ
salario
サラリオ
賃金
salatino
サレティーノ
プレッツェル
salato/a
サラート(タ)
しょっぱい
salgemma
サルジェンマ
岩塩
saline
サリーネ
塩の干潟
salsa
サルサ
ソース
desalinazione
デサリナツィオーネ
淡水化
insalata
インサラータ
サラダ


この中でおなじみなのは salame だ。日本語や英語では「サラミ」と言うが、これはイタリア語の「サラメ」の複数形。salsaは日本語では音楽用語としてよく知られているが、もともとはスペイン語やイタリア語で料理のソースを表す言葉だ。




おもしろいのは、岩塩を表す salgemma という言葉。sal は塩、gemma は宝石の意味。岩塩は結晶化したものなので、確かに宝石のようだ。英語では rock salt。英語のストレートな表現に比べ、ラテン系の言葉には味わい深い表現が多いような気がする。(個人的な意見です > <



オリーブオイルあれこれ



イタリア語でオリーブは「oliva(オリーヴァ)」、オイルは「olio(オリオ)」。英語とよく似ていて覚えやすい。それぞれの語源は次の通り。


Oliva: ギリシャ語 λαία がラテン語の oliva
Olio: ギリシャ語の λαιον がラテン語の ŏleum




おもしろいのは、オリーブ/オリーブオイルの世界No.1 生産国であるスペインでの呼び方。「オリーバ(oliva)」という言葉もあるが、一般的に、オリーブは「aceituna(アセイトゥーナ)」、オリーブオイルは「aceite(アセイテ)」という、アラビア語起源の言葉が使われている。これは、スペインが500年以上にわたりイスラム帝国の支配を受けていた名残り。


ちなみに、オリーブオイルというと、イタリアの生産量が多いと思われがちだが、実はスペインが圧倒的。国連職業農業機関(FAO)のデータではこうなっている。




なお、国としての消費量はイタリアがトップ。一人当たりの消費量でもイタリアはトップ3入りで、オリーブオイルの国としての面目躍如たるところ。トップ3の年間のオリーブオイルの摂取量は一人当たり何と約10キロ!それに比べ日本は400グラム…だいぶ少ないですね。





バルサミコ酢は高級品?



本物のバルサミコ酢は、イタリアのモデナおよびレッジョ・ロマーナで、伝統的製法により作られたもの。普通の酢に比べたらかなり高い。イタリアでは、日常の料理に使われる酸味の調味料としては、ワイン・ビネガーやレモン汁が一般的のようだ。


イタリア語で「酢」は「aceto(アチェト)」。バルサミコ酢は「aceto balsamico」、ワインビネガーは「aceto di vino(アチェト・ディ・ヴィーノ)」と言う。



おまけ:似ているようで似ていないイタリア語とスペイン語



「オリーブオイル」と「酢」の単語は、イタリア語とスペイン語でちょっと混乱する。

イタリア語
スペイン語
オリーブオイル
olio d'oliva
aceite
aceto
vinagre


イタリア語の「酢」とスペイン語の「オリーブオイル」のつづりがよく似ているのだ。実はこれはたまたま。aceto はラテン語起源だし、aceite はアラビア語起源なので、まったく別の言葉。異なる調味料が同じような言葉で呼ばれているというのは、偶然とはいえ、おもしろいものだ。


ちなみに、スペイン語の「vinagre(ビナグレ)」というのもラテン語起源。ラテン語の「vinum acetum(酸っぱいワイン)」が元になっている。そして、この acetum がイタリア語の aceto の語源なわけで、混乱しますぅ~



参考:
Wikipediasale」「halite (solgemma)」「olio di oliva」「aceto balsamico」「aceto
Wikizionariosale」「olio」「oliva」「aceto
Diccionario Etimológico aceite」「aceto」「vinagre